テキストサイト史記 〜太腕繁盛記 第二章〜

 

第二章〜独立

 

その小さな酒場にはいろいろなお店の方がきていました。日用雑貨を売っているお店。占いをやっているお店。人生相談をやっているお店。使い道がわからないような機械がいっぱい置いてあるところ。専門店のような立派なお店。私のように露店に毛が生えたようなお店。

お店の切り盛りについての話もするようになりました。私のような素人がそんなことを話せるのかって? なまじ知識がないほうがかえってお客様が入りやすいというところもあるんですよ。装飾に凝りすぎて、かえって商品がどこにあるのかわかりにくいとか。

 

 そんな一人、かおるさんから言われた言葉がいろいろと考えるきっかけになりました。独立する気はないのというんです。

 

確かにいろいろ不満はありました。

商品の形を変えられちゃうとか。ちょこっとなんですけどね。性能は変わりませんよ。ただ、つくっている人間のこだわりというものがあります。

また、マスターの口上が売り物とはいえ、自分の商品を売っていることで変なお客様がくるようなことをいわれると気になりますしね。

ただ、片隅とはいえ、大勢のお客様がくるところで売ったほうが売れるかなと。

 

 まあ、それも含めて、いろいろなことが積み重なったんでしょうね。つくれなくなったんですよ。モノが。それでつくるのをやめようと思いました。

 でも、村の方々の励ましで、頑張ってみようかなと。ひそかに応援してくれていて、こっそり材料を家の前に置いておいてくれたりしていたんです。

 とりあえず気晴らしに旅に出ることにしました。

 

 冒険者たちが集うところにたどり着いたんです。

 様々な武器を使って、自分の力を競い合っていました。身軽さを武器にしている方。腕力を武器にしている方。

 

 そんな中にひときわ人目を引く方がいました。黒い重そうな鎧のせいでしょうか。全身からほとばしる威圧感のせいでしょうか。背中に背負った大きな剣のせいでしょうか。

 でも、兜の隙間から見える目が優しげで、それが余計に印象に残りました。

「斬鉄剣」のナミ様。名高い剣士だそうです。

 

どういう方なんだろう。ナミ様の足取りを辿ることが旅の目的の一つになりました。いろいろなところで名前を耳にしました。尊敬のまなざしで語る方。憎悪のまなざしで語る方。

私もナミ様について語るようになりました。そして、ナミ様ゆかりの商品を売るようになりました。同じ商品でも「斬鉄剣」のナミ様の名前をつけるだけで飛ぶように売れました。

 

 そんな中でナミ様がおっしゃるのを耳にしました。

「目的のために地べたに這いつくばれる人間」

 

 自分に言われたような気がしました。

 商売のために職人としてのプライドをかなぐり捨てているのではないか。

 

 完全に独立して商売することにしました。人気ある冒険者の名前に便乗した商売は相変わらずですけどね。だって、一番売れますし。

 

ここからが始まり

 

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